小学校教科書における刃物教材に関する研究
          The Research on the Actual Condition of the Cutlery Subject
          Described to Elementary School Textbooks  
 河合康則 1) 安孫子 啓2) 千葉 徹 3)
 Yasunori KAWAI, Hiraku ABIKO and Toru CHIBA 

 小学校における技術教育としての刃物教材の在り方を考える基礎資料を得るために,小学校教科書に活字として記載されている刃物名の記載頻度及びその分布,教科毎の指導要素と特徴等に関して調査・分析を行った。  
 その結果,刃物教材と関連の深い教科には理科,生活科,図画工作科,家庭科,体育科(保健)があげられるが,記載されている刃物名や種類,構造,原理,材質,用途,使用法,安全の指導要素は,それぞれの関連が薄いだけでなく,教科書の発行者によって記載状況が異なっているので,刃物教材としての系統性が見極めにくい実態となっていた。  
 また,頻出した刃物の指導要素は,用途,使用法が中心で,構造,材質に関して触れている教科書は少ないことがわかった。児童・生徒が科学的根拠に基づいて刃物の使用が徐々にできるようになるためには,小学校高学年において,総合的な実践力を身につけるための,技術教育的視点に立った刃物の学習の場の設定が必要であると思われた。  

キーワード:,小学校教科書,教科書分析,刃物教材,



 
1 はじめに  

 人間の最大の特徴として,道具を製作し,器用に使用することがあげられる。中でも刃物は,火や水の利用とともに人類が手にした古い歴史を持つ道具の一つであり,人間生活の向上や社会文化の発展とともに,人間生活に密着して用いられてきた(1)(2) 
しかし,科学技術の進歩に伴う機械化や職業の多様化に伴う職業活動の専門化,さらに経済や流通の発達とともに,人間と刃物との関わり方も変わってきた。例えば生活必需品は,工業製品として大抵のものは手に入り,自分の手で刃物を使わずとも加工済みの品を買い求めることが可能となっている。このように刃物を使用する機会が日常生活の場面から減少している中で,刃物が使えない子どもが増加しているとも言われている(3)。 普通教育における技術教育は,児童・生徒が単なるものつくり体験に終始することなく,さまざまな素材に触れ,素材の特徴を理解し,適切に道具を活用して創意工夫しながら有用物を作り出す活動の中で,技術のおもしろさやすばらしさに気づかせ,実践的な感性及び創造性を育てる意義を有している。さらに,技術に関して的確な認識に基づいて公正に評価し判断できる能力を育てる意義も有している(4) 
 「切る」「穿つ」「割る」「削る」などの工具としての刃物を用いた作業は,物を加工し,生産する上で欠くことのできない技術であり,刃物について学ぶことは道具を使いこなす基礎を学び,技術のおもしろさやすばらしさに気づかせることにつながる。 
 しかし,初等普通教育を施すことを目的とする小学校教育において,このような技術教育的観点から,どれだけの刃物に関する内容が扱われているのか,客観的に大観する資料は見当たらない。 
 そこで本研究では,小学校における刃物教材を考えるための基礎研究として,小学校で使用されている小学校教科書を対象とし,教科の枠を超えて記載されている刃物「活字としての刃物名」の記載頻度及びその分布,そしてその指導要素を明らかにすることを目的として調査・分析を行った。 

1) 技術教育 
2) 宮城教育大学 
3) 宮城県大目小学校

 
2 研究方法   

 研究に際して,以下に示す視点T・Uを設定した。 
・視点Tは,小学校教科書を通して,各教科別の刃物の記載状況・分布・指導要素を明らかにする。 
・視点Uは,Y小学校で採用されている1〜6学年までの小学校教科書の組み合わせをもとに,教科書上で学習する一連の刃物の記載状況・分布・指導要素を事例的に明らかにする。 
 まず視点Tでは,各教科の指導要領及び指導書を参照したところ(5)(6)(7)(8)(9)(10),刃物教材と関係が浅い教科(国語,国語書写,社会,算数,音楽)と,関係が深い教科(理科,生活,図画工作,家庭,体育(保健))に分けられたので,表1に示すように本研究では,関係の深い5教科の教科書に重点を置き,それら教科の平成6年度全発行者の教科書(11)を対象として,それぞれの教科毎に分析整理した。なお,対象とした教科書の発行者は,発行者番号(11)の小さい順にA〜Rの記号を付した。 
 次に視点Uに関して,Y小学校で採用されている表1「◇印」教科書の組み合わせについて分析整理した。 
 なお,分析整理に当たって,それぞれの教科書の中で活字としての記載がみられる刃物名を検索し,記載頻度を集計し定量化した。この際,刃物を「対象物を切断・切削・穿孔するために,金属もしくはそれに代わる硬質の物質で,人工的に作られた単数ないし複数の鋭利な刃を持つもの」と捉え,石やガラス,下ろし金,紙やすりなどは除外した。 
 また,記載がみられた刃物について,表2に示すように種類・構造・原理・材質・用途・使用法・安全の7項目の指導要素を設定して,各刃物がどの指導要素を持っているかを分類した。
 
3 結果及び考察    

(1) 理科教科書における刃物の記載状況  
 理科教科書は,3〜6学年に発行されており,内4〜6学年は上・下2冊ずつとなっている。表3.1及び表3.2に示すように,理科教科書における刃物の記載状況の特徴は次の通りである。  
@第3学年で「はさみ」が記載されている教科書があるが,「じしゃくにつくもの」や「電気を通すもの」の例としてあげられているものである。  
 刃物の記載分布をみると,第5学年及び第6学年に刃物名の記載が多い。  
A記載が比較的多い刃物には,「はさみ」「カッターナイフ」があげられる。  
B指導要素についてみると,第5学年に記載された刃物は原理に関する記述が最も多い。これは,第5学年の「てこのはたらき」に関する学習の中で,支点・力点・作用点の応用事例として「はさみ」や「押し切り」などを提示しているからである。  
C第6学年では,「水の通り道」の実験や「魚のからだの中のようす」の解剖観察,「ジャガイモのでんぷん」の実験,「星の観察箱」の工作など,実験や観察を遂行するための道具として記載されている。  
D刃物の用途や使用法に関する記述も見受けられるが,刃物教材としての系統性は薄く,「種類」「構造」「安全」などの記述はほとんど見受けられない。  
 以上のように,理科教科書に登場する刃物は,主に原理を理解させるために,実生活の道具(工具)を例示したり,実験・観察に伴う作業の中で用いられる場合など,副次的な扱いが主体となっている。 
 
(2) 生活科教科書における刃物の記載状況  
 生活科教科書は1・2学年において12の発行者から発行され,その種類は比較的多い。一方,生活科指導書には,生活科の内容として「物の製作・遊びや生活などに使うものを作り,楽しく遊ぶことができるようにする」が示されており(12),いずれの教科書にも「遊び」や「ものつくり」などに関連した,「はさみ」や「カッターナイフ」などの刃物を用いた数多くの教材例が,挿絵や写真で描かれている。この点からも生活科は刃物教材とは関係が深いと考えられる。  
 しかし「活字としての刃物名」の記載は以外に少なく,記載がみられたのは「はさみ」や「カッターナイフ」「きり」に関する3発行者の教科書のみである。しかも指導要素は「はさみ」「カッターナイフ」のもちかたについて示されているだけである。生活科教科書は第1・2学年の小学校低学年児童が対象の教科書であり,教科書上の活字量自体が少ないことや,生活単元学習的な編集形態を取っていることが刃物名の記載が少ない原因と考えられた。 
 
(3) 図画工作科教科書における刃物の記載状況  
 表4.1及び表4.2に示すように,図画工作科教科書における刃物の記載状況の特徴は次の通りである。  
@第1・2学年の教科書では,生活科教科書と同様,単元毎に「はさみ」や「カッターナイフ」を使用する工作教材は提示されているが,図や写真による提示が主体となっているので,使い方など技術教育的視点での記述は少ない。しかし,発行者B・Mのように,「はさみ」「カッターナイフ」の使い方について若干の記載が見受けられる教科書もある。  
A第3学年の教科書では,発行者F・Mのように「小刀」や「カッターナイフ」について,比較的詳しい記載が見受けられる教科書もある。一方,発行者B・Oのように記載が見受けられない教科書もある。  
B第4学年頃から記載頻度が高くなり,「彫刻刀」「カッターナイフ」が特に頻出している。木工用「のこぎり」や,「丸刀」「三角刀」など各種の彫刻刀の記載も多く,種類・用途・使用法・安全についても触れられており,比較的充実している。このことは,全ての教科書で木工作や木はん画が題材として扱われていることと関連しているが,発行者Oのように,刃物についてほとんど記載されていない教科書もある。  
C第5学年では,板の工作で「電動糸のこぎり」が記載され,構造・用途・使用法・安全について触れられている。その他,木や石の彫刻や空き缶の工作で「のみ」「たがね」「金切りばさみ」などが記載されている。  
D第6学年では,粘土・紙・木・版画など,様々な材料を用いた造形題材が取り上げられている。しかし,刃物の記載に関しては,発行者B・Oのように記載がほとんどない教科書と,発行者F・Mのように木材の工作に関連して,比較的詳しく載せている教科書とがあり,一様ではない。  
 以上のように,全体的にみれば,図画工作科では,「はさみ」「カッターナイフ」「小刀」「彫刻刀」が刃物教材の中心的存在である。さらに「のこぎり」「電動糸のこぎり」などの木工用刃物教材も記載されている。  
 指導要素については,用途だけでなく,種類・使用法・安全などについても触れられており,技術教育との関連が深いが,構造・原理・材質については,ほとんど記載されていない。また,発行者Oのように,刃物を含めて,道具類の取り扱いが全く記載されていない教科書もある。 
 
(4) 家庭科教科書における刃物の記載状況    
 家庭科教科書は,5・6学年に発行されており,表5.1及び表5.2に示すように,家庭科教科書における刃物の記載状況の特徴は次の通りである。  
@刃物名の記載は第5学年にみられる。主な刃物は「はさみ」「ほうちょう」である。「はさみ」は,被服領域の「さいほう用具」「ふくろ作り」の中で取り扱われ,「ほうちょう」は「野菜の調理」「「野菜サラダ作り」の中で取り扱われている。  
A指導要素では,種類・用途・使用法が中心で,構造・原理・材質については記載されていない。  
B第6学年では,被服・食物領域の実践例の中に,刃物を使用する場面が図や写真で示されているが,活字では記載されていない。  
 以上のように,家庭科教科書に登場する刃物は,被服・食物領域での製作・調理を遂行するための一道具として,使用法を中心に扱われている。 
 
(5) 体育科(保健)の教科書における刃物の記載状況  
 保健の教科書は5・6学年用として,6つの発行者から発行されている。その中で刃物と関係する記載がみられるは2つの発行者の教科書だけである。それらの記載内容をみると「学校生活での事故」の事例として「彫刻刀」「はさみ」「ほうちょう」の刃物名があげられている。また,刃物によるけがの防止については「用具を正しく使おう」といった一般的な注意の喚起に止まる記述である。刃物の使用には危険が伴うので,刃物の記載頻度が増す小学校高学年の実態を考慮すれば,刃物によるけがの防止について,他教科の指導内容と関連を図った具体的な記述が必要と考えられる。  
 以上のように,刃物教材と関係が深いと思われる教科について,教科書における刃物教材の扱いをまとめると以下のようになる。  
 生活科のように,活字による刃物の分析では実態が把握できない教科もあったが,小学校教科書の刃物教材は4・5・6学年において,指導要素を伴って記載されている。しかし,刃物の教材としての位置付けは教科によって異なり,理科は主に原理を知らしめる事例として,図画工作科や家庭科は使用法に重点を置いた内容として,保健の一部の教科書では,けがの防止のための事故事例として記載されている。すなわち,小学校教育の中では,技術教育を目的とする教科が独立して存在しないので,前述の教科が,相互に刃物教材の指導要素を分担する構造となっている。しかし,それぞれの教科書の記載内容は少なく,刃物教材としての系統性が見極めにくい実態となっている。 少なくとも小学校高学年の教科書において,材料や構造や原理など,刃物の知識に関連づけた安全で効果的な刃物の使用法が指導できるような,総合的な刃物の学習の場を設定することが必要と考えられる。
 
(6) Y小学校モデルにおける刃物の記載状況  
 視点Uに基づいて,Y小学校で採用されている1?6学年までの小学校教科書の組み合わせにおいて,各教科と指導要素との関係を表6.1に示す。刃物名の記載は図画工作科教科書に最も多くみられ,理科,家庭科,国語科などにもみられる。  
 一見無関係と思われる国語教科書には,第5学年下のきこりが登場する「木竜うるし」,第2学年上のぶんぶんこまの「つくり方を話す」,第3学年上のへちまを切る実験を書いた「作文」,第6学年上の小刀で竹を削るようすが書かれている「祭りばやしとしの笛」などの題材の中に刃物名が頻出している。これらは国語教育教材であり,刃物の指導要素を学習させるためのものではないが,伝統文化やものつくりと関連して,刃物について認識を深める効果が期待できるものと考えられる。   
 表6.2に示すように,刃物と指導要素との関係についてみると,刃物の指導要素は,用途に関する内容が37件と最も多く,次に種類や使用法となっている。しかし,記載頻度が比較的高い「のこぎり」「はさみ」「カッターナイフ」「小刀」「(電動)糸のこぎり」においても,安全指導に関する記載は見当たらない。  
 以上のように,1〜6学年までの教科書上で学習する一連の刃物の記載状況をみると,刃物教材と関係が浅いと思われた国語科教科書にも,刃物について認識を深める効果が期待できる記載があることが分かった。全体的な傾向としては視点Tと同様,構造,原理,材質,安全の指導要素に関する記載が少なく,刃物教材として指導すべき要素を欠いたものであった。小学校における刃物に関係する教育は,図画工作科をはじめとして,実体験的な実践が中心となっている。そこでの学習支援は教師の指導力に負う所が多く,まずは教師自身が刃物について学ぶ必要があると考えられる。しかし,教科書が小学校6年間の基本的教材であることを考慮すれば,教師の力量のみに期待するのではなく,実践を支えるバランスのとれた刃物の基礎知識を教科書に明記すべきと考える。 
 
4 おわりに  

 本研究では,小学校における刃物教材を考えるための基礎研究として,小学校で使用されている小学校教科書を対象とし,教科の枠を超えて記載されている刃物「活字としての刃物名」の記載頻度及びその分布,そしてその指導要素を明らかにすることを目的として調査・分析を行った。  
 小学校教育の中では,刃物教材に関係の深い教科が,相互に刃物教材の指導要素を分担する構造となっていたが,実際には,それぞれの教科書の記載内容は少なく,刃物教材としての系統性が見極めにくい実態となっていた。これらの結果は,あくまでも一側面であり,小学校教育における教科書の意義・役割が問われるところであるが,総合的な刃物教材の記載が存在しない事を考慮すれば,生活科や課外活動・図画工作などにおける実体験的な刃物を使った活動と呼応する,小学校高学年における技術教育的観点に立った刃物の学習の場の設定が必要と考える。 


参考文献 
1)浜本昌宏:「ナイフでつくる?子どもの発達と道具考」,民衆社,P.2,PP.80~86(1977) 
2)寺内定夫他:「子どもの遊びと手の労働」,あすなろ書房,PP.3~6,PP.58~97(1982) 
3)谷田貝公昭:「鉛筆が削れない?現代っ子不器用の証明」,公文数学研究センター,PP.10~168(1980) 
4)日本教育大学協会全国技術教育部門技術教育研究委員会:「小・中・高校における普通教育としての技術教育の基本構想試案」,日本教育大学協会全国技術教育部門,PP.6~7(1997) 

5)文部省:「小学校学習指導要領」,大蔵省印刷局,PP.1~122(1989) 
6)文部省:「小学校指導書 理科編」,教育出版,PP.1~116(1989) 
7)文部省:「小学校指導書 生活編」,教育出版,PP.1~77(1989) 
8)文部省:「小学校指導書 図画工作編」,開隆堂,PP.1~147(1989) 
9)文部省:「小学校指導書 家庭編」,開隆堂,PP.1~88(1989) 
10)文部省:「小学校指導書 体育編」,東洋館,PP.1~117(1989) 
11)社団法人教科書協会:「教科書定価表」,PP.4~14(1994) 
12)文部省:「小学校指導書 生活編」,教育出版,P.18(1989) 


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